キジログ@愛

キジちゃんがその隠しきれないバード愛について語るブログ

坂の上の牛乳屋さん

「どうもどうも!こんにちは!中川平八商店です!」

たまたま実家に用事があり、私と母とが軒先で喋っているときにやってきたのはこの土地で古くから牛乳配達をしている町の牛乳屋さんでした。

「わたし今ね、この辺でね、無料でヨーグルトを配ってまして、これなんですけどね」

そう言ってバイクに据え付けられた冷蔵の宅配ボックスからヨーグルトを取り出す牛乳屋の男性。

「これ差し上げますんで、まぁよかったら食べてみて下さいよ!はっはっは!」

優に70歳を超えているであろうその老齢の配達員は、皺でくしゃくしゃになった笑顔を絶やさないまま私達にそれを差し出しました。

「あら、貰っちゃっていいのかしら?悪いわねぇ」

それをまんざらでもない顔で受け取る母。

「どうぞどうぞ!それでね奥さん、うちでは他にもこんなのをやってましてね」

鞄からカラーの薄いカタログを取り出す男性。カタログには宅配用の乳製品一覧が掲載されていました。

「この牛乳なんかね、毎日飲むと健康に良いし、うちでも人気商品なんですよ!よかったらお宅さんでもどうですかね?私が毎日配りに来ますんでね!」

私と母が遭遇したのは、平たく言えば配達員による宅配牛乳の営業なのですが、しかしこの男性からは不思議と嫌な感じは受けませんでした。老齢ながらも生き生きとした表情、深く刻まれた顔の皺、浅黒い皮膚、真っ白な髪。長年の経験によって裏打ちされた自信と、仕事に対する誇り。それらを持ち続けたまま今でも現役で販売員をしている、そんな印象でした。

「でもねぇ、アタシは一人住まいだから、牛乳なんてそんなに飲まないのよ」

と母。

「ああ、そうなんですか!はっはっは!でもまぁ少しの量でもね、私が配達しますんで!もしよかったらお願いしますね!私はあの坂の上の所で牛乳屋やってます『中川平八商店』っていいますんで!」

「あら?あそこの牛乳屋さん?あそこは昔からやってるわよねぇ」

「ええ、もう80年ばかしこの辺で牛乳配達をやってますよ!私はまだこの仕事始めて42年しか経ってないんですけどね!まぁよかったらね、いつでも声かけて下さいよ奥さん!私はいつもこの辺うろうろしてますから!」

そう言って牛乳屋さんは去って行きました。

「どうしようかしらねぇ・・・」

「うん?母さんもしかして今の人から牛乳取ろうとしてる?」

「なんかヨーグルト貰っちゃったし、貰うだけっていうのも悪いわよねぇ」

「いやいや、母さん牛乳なんてそんなに飲まないでしょ?さっき自分でも言ってたじゃん」

「だけどねぇ、あの人頑張ってるみたいだし・・」

そう思う母の気持ちは分かります。でも母にとって不要なものは、やはり不要なのです。私は母を冷静に諭し、牛乳配達の契約を思いとどまらせました。

「そうよねぇ、アタシ牛乳なんてあまり飲まないしねぇ」

「そうそう、無駄な事はしない方がいいよ。腐らせて捨てる事になるだけさ。さっきの人また来るだろうけどちゃんと断りなよ?」

「ええ、そうするわね」

「それがいいよ。もう宅配牛乳とかそういう時代じゃないんだから」

 

 実家での用事を終え、帰り際、

「そうえいばさっき貰ったヨーグルト、あんた持って帰る?あげるわよ?」

「いや、俺はいらない。母さんが食べなよ」

美味しそうなヨーグルトでしたが、私はそれを食べる気にはなれませんでした。

さきほどの配達員の男性はとても誇らしげに仕事をしているように見えました。会話に嫌みも無く、しっかりと相手を見て、強引に距離を詰めることもなく、去り際はサッパリとしていて、それは営業とし理想的とも言える仕事だとさえ感じました。男性の仕事に対する姿勢は見事でした。私は彼に人生の先輩としての尊敬すら覚えました。

・・・でもね。もうそういう時代じゃないんですよ。牛乳やヨーグルトなんてみんなスーパーで買うんです。コンビニだったら24時間いつでも買える。今の人は必要なときに必要なものだけを買うんです。牛乳を毎日家まで配達して貰うなんて、そんなビジネスモデルはもはや完全に時代遅れなんです。

それだけに・・・。私は得も知れぬ悲しみを感じました。人はいいし尊敬も出来る。でもそのサービスは、もう・・・。その悲しみは次第に、分かっていながらもなかなか変われない、そんな私自身へと向けられていきました。こんな気持ちで、そのヨーグルトは、私にはとても食べられない。

 

自宅に帰る途中、買い物を頼まれていた事を思い出し、事前に渡されたメモを手に取りました。

『・卵(安い物)・3個100円の納豆・いつものお米5kg・低脂肪の牛乳・ヨーグルト(好きな物)・ビール(欲しければ)』

近所の大型スーパーに寄って買い物をします。

「えーと、卵、納豆、牛乳は低脂肪のやつで、あとは・・・」

目の前はヨーグルト売り場です。そこには多種多様なヨーグルトが所狭しと置かれていました。数あるヨーグルトの中から私が手にとったのはグリコの『Bifix』。私これ好きなんでよす。つーかマジで美味いんです。もうなんつーかね、普通に味が美味い。美味すぎる。もはやヨーグルトを超越してるよコレ。あっ、もしかしてこれってお菓子なんですか?私がこれを食うにあたり健康とか一切気にしません、完全に味だけです。もう375gを一気食いしたいレベル。

そんな訳で先ほどの尊敬できる人生のパイセンa.k.a牛乳配達員の顔なんぞ一切思い浮かべないまま普通にスーパーでBifixを買って帰宅し自宅のダイニングでそれを即食いました。はぁぁぁぁあぁぁあ♡♡♡Bifix美味しいよぉぉ!♡♡♡

つーか今調べて知ったんですけど、このヨーグルトってAmazonでも買えるんですね。だったらAmazonで6個入を箱買いするわ。最近じゃもうスーパーに行くのもメンドクサイ。ネットスーパーでも売ってんのかな。でもネットスーパーって結構たくさん買わないと送料かかったりするよね。なんだったらこのヨーグルトだけ送料無料で家まで定期配達とかしてくれれば楽だよなぁ。Amazon定期便っていうのもあるけどなんかあれメンドクサイんだよね。もっとこう気軽に使えるその手のサービスってないんですかね。たとえば地元の小さな商店が小口で毎日配達してくれるとかだったらすっごく便利だし商店としても安定した売上になると思うんですよね。というかこれは新たなビジネスモデルなのでは?マジブルーオーシャン。誰かそういう商売始めてくんないかな。

 

なんにせよ、時代を読むというのは本当に難しいものですね。というお話。

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