キジログ@愛

キジちゃんがその隠しきれないバード愛について語るブログ

友人への出資

昼に、木嶋さん(仮名)から久し振りに電話があった。というより電話で話すのは始めてだった。木嶋さんには現場では何度か会っていたが、私は彼にあまり馴染めなかった。

木嶋さんは開口一番「あいつ、ヤバイよ」と言った。

 

私が小中学生時代を共に過ごした友人高野(仮名)が「とあるスポーツ」を振興するための非営利法人を立ち上げたのは今から約2年半前。その立ち上げの直前、私と木嶋さんに声がかかった。

高野が言うに、非営利法人を立ち上げるには自分の他に2名の理事が必要との事。その理事として高野は私と木嶋さんを誘った、いや、今思えば白羽の矢を立てたという方が正しい表現だろう。

高野は言った。私と木嶋さんに理事になって欲しい。そしてその為には二人からの出資が必要なのだと。

理事に就任し、出資をする。だが私と木嶋さんにはそれぞれ現在の仕事があるため会社は実質的に高野が一人で運営する事となる。つまり私達は高野にとって名義貸しと初期の運転資金の調達元なのだ。

高野の提示した出資金は20万円。土木系の会社を経営し黒塗りのメルセデスを所有できるほど羽振りのいい木嶋さんにとっては大した金額ではないだろう。一方の私はクソみたいな零細勤務だが、しかし当時はまだ景気が良い時代で、手元にいくらかの自由に使えるお金を持っていた。

「俺は、このスポーツに関する仕事で食っていきたい」夢を熱く語る友人。

友の力になるのもいいだろう。そんな想いで私は高野に金を預けた。

「上手くいけば、キジちゃんにもお給料を出す事ができる」私からの出資金を受け取り、高野は笑顔でそう言った。

 

スポーツ振興事業は表向きは上手く行っていたようだ。

法人立ち上げ以前から高野がトップをつとめているスポーツサークルの会員数は現在数百名にまで達している。規模としてはすでに国内有数の組織だ。

高野は会員の中でも特に懇意なメンバーを招集し、法人主催の大会を開いたり、イベントの運営ボランティアをさせたりしていた。私もボランティアとして彼の仕事を手伝った事がある。もちろん、現場までの交通費も何も出なかったのだが。

そのうち高野はこのスポーツ業界を盛り上げるサークルの中心人物として、業界誌などにも(小さな欄にではあるが)掲載されるようになっていった。

 

非営利法人における理事の任期は2年なのだそうだ。

木嶋さんは任期満了からそのまま退任し、当初の出資金の返還を求めた。(私の役職は任期が5年らしいので、私は特に何もしていない)

だが高野は、出資金の返還を遅らせてくれるよう木嶋さんにお願いしたらしい。

法人の経営状況が悪い事を(なんとなくではあるが)把握していた木嶋さんは、一旦はそれを飲んだ。少しなら待つと、木嶋さんは高野に伝えた。

理事が退任した場合、法人は新しい理事を選定し法務局に届出を出さなくてはならない。それは当然、法的に必要な手続だった。しかし、

「あいつ、その手の法的な手続もなにもやってないらしい」と木嶋さんは言うのだ。

「え、放置ですか?それはまずいんじゃないんですか?」と私は尋ねた。

「バレると最悪罰金が課されるらしい。登記上は俺もキジ君も理事のままだから、最悪俺らにも責任が及ぶ可能性もある」

 

思い返せば春頃に高野からメールがあり、新しい人を理事にするとかなんとか、そんな事を言っていた気がする。その時は私には関係ない話だと思って無視していた。

木嶋さんの話では、高野は木嶋さんが退任した後、新しい人(松井さん(仮名)とする)を理事に据える為、松井さんにその話をしてすでに出資金を受け取っているのだそうだ。

しかし書類上は松井さんは未だに理事でもなんでもなく、無関係な人のまま。

では松井さんが出資した金はどうなったのかというと・・・それは、木嶋さんに出資金を返還できないという事実が状況を物語っている。

さらには会員から集めた数十万円の会費を、支払うべき相手(スポーツ競技場の運営施設)に支払っておらず、その上その代金を木嶋さんに立て替えてくれとまでお願いしてきたのだそうだ。

木嶋さんもこれには怒り、高野に対する不信感は決定的なものとなった。

 

高野は嘘をつくような人間ではない。志も本物だった。頭も決して悪くはない。

そんな彼を何が「このような状況」にさせてしまったのか。

それは、「あいつは人の言う事を全く聞かない」からだと木嶋さんは言う。

木嶋さんによると、法人の運営会議での決定事項が待てども待てども履行されないのだそうだ。

なぜ履行されないのか?先の会議に参加した木嶋さんが高野にそれを尋ねたところ

「いや、やっぱり別の案の方がいいと思いまして」

の一言で終わらされた。

それで収益が上がるのであれば誰も文句は言わない。しかし収益はいつまで経っても赤字のままなのだ。

「あいつは出資者である俺の言う事も、他の誰の言う事も、何一つ聞かないんだよ」

 

サークルの中では年長者で、新任理事(になる予定)の松井さんが、今度高野に話を付けに行くことになった、と木嶋さんは言う。

松井さんは「金だけ集めて何もしないのであれば、それは詐欺だ」とまで言ったのだそうだ。

高野はいよいよ追い込まれていった。

 

***

 

友人に金を貸す以上、私はそれははじめから戻ってこない物と覚悟している。しかし現在、自分の会社の状況が悪い中で、この20万円というのは実際的にあれば相当に助かる金なのだ。木嶋さんの話を聞いた後、私の中に後悔の念が押し寄せていた。出来ることならこの金を返して欲しいと私は思った。どだい無理な話なのかも知れないが・・・。

高野から連絡があったのは、木嶋さんとの会話からちょうど二ヶ月が経った頃だった。

「キジちゃんに話したいことがある。時間を作ってくれないか?」とだけ奴は言った。

奴の「話したいこと」とは何か。私はそれを直感的に理解出来た。恐らくは出資金増額の依頼であろう。それならばこちらも出資金の返還を求めてやる。密かにそんな意気込みを抱きながら、私は奴と会うことにした。

 

駅前にある安居酒屋の個室で私と奴は2年半ぶりに一対一で対面することとなった。思い返せばあの時も同じ居酒屋の同じ個室だった。私はここで奴に夢を聞かされ、そして出資する事を決めたのだった。”決着”を付けるにはこの上ない場所だ。

「今日も東京で会議が~」「あそこの理事の○○さんに会って~」「先日のイベントも相当人が集まって~」

既視感のある口調だった。それは私が仕事でメーカーからの営業を受けるときに聞くものと同じだったのだ。「弊社の製品はこんなに優れていて~」「他のお客様にも大変気に入って頂いており~」「他県ではこんなにも多数の実績がございまして~」これまでに、この手の口調で紹介された商品が売れた試しはない。

心が苦しかった。彼はもう、私の友達ではなかったのだ。

彼が得意げに広げるMacBookのプレゼン資料を眺めながら、私の心は既にここにはなかった。早くこの場を去りたい・・・もうやめてくれ・・・。

「・・・という計画を立てているんだ。どうだ、スゴイだろ?」顔に得意げな表情を浮かべる高野。

「そうだね、いいんじゃないかな」そう言うだけで私は精一杯だった。そして、奴が発する次の一言を待つ。

「それでね・・・」

二杯目のビールはもうカラになっていた。水を一口飲み、カラカラに乾いた喉を潤す。

「これが上手くいけばキジちゃんにもいくらか配当を渡せると思うんだ」

「うん・・・・・・それで?」

「・・・それで?って??」

「だから俺は・・・・・お前が今日俺に何を言いに来たのかって聞いてるんだよ」

「え?言うことはこれだけだけど」

「・・・は?」

「キジちゃんはうちの理事じゃん?そしたら仕事の進捗を報告しないといけないでしょ?今日はその報告をしに来ただけなんだけど・・・」

「え?それだけ?」

「うん、それだけ。2年以上かかったけど会社もやっと軌道に乗ったよって。キジちゃんを安心させたくてね」

「金は・・・?追加の出資は出さなくてもいいの?」

「は?何言ってんの?お金は前に出して貰ったじゃーんwwwその節はあざーすwww」

 

・・・とんだ勘違いだった。高野はずっと私のことを友人として見てくれていたのだ。それも大切な友人として。

例え一時でも私は友を疑ってしまった。木嶋さん言葉をそのまま信じてしまった。そんな自分をとても恥ずかしく思った。

「あ、酒頼むけどキジちゃんは何かいる?」

「・・・じゃあ、ビールを」

「さっきからビールしか飲まねぇなオイwww」

友人は笑い、そして私も笑った。

 

その後は木嶋の糞野郎の悪口と、この件で実は松井さんは高野の味方だったこと、さらには私が今日高野に金をせびられるんじゃないかとビクビクしていたこと、そしてお互い金は無いけどなんとかやっていることなどを楽しく話し合い、終電前に解散した。多めに注文してしまった料理の皿は、二人でキレイに平らげた。

 

 

出資した金はドブに捨てたようなもの。はじめから戻ってくるとは思っていない。だが、そのお陰で友と二人で美味い酒が飲めるのであれば、それも全く無意味なものではないのだろう。

深夜の歩道で生温い風を体に感じながら、私はそう思うのであった。

 

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